はじめに

東京証券取引所が2026年8月12日に公表した機関投資家アンケートには、別紙があります。

国内外の機関投資家74名(43機関)が「取組みの進展が見られる企業」として挙げた300社の一覧とその理由を書いた評価コメントです。

前回は、企業と投資家が同じ「対話」という言葉で別のことを言っている、という話を書きました。今回は投資家の側だけを見ます。

多くの投資家から名前が挙がる会社(みんなが推す会社)は何によって評価されているのでしょうか?

この問いについて、アンケートを紐解きながら考えてみたいと思います。

何をしたか

300社のうち、評価コメントが「-」だけの10社を除いた290社が対象です。箇条書きは425本、合わせて40,288字ありました。

この文章を機械(自然言語処理)にかけて、似た内容どうしを6つのまとまりに分けています。

まとまりの名前は、よく出てくる言葉を見ながら私がつけました。

一人が推す会社と、みんなが推す会社

290社のうち207社は、投資家が一人だけ推す会社です。残る83社は二人以上が推す会社でした。最多は7票です。

この2つを並べてみます。左が1票の会社、右が2票以上の会社です。それぞれの群の中での割合なので、どちらも足すと100%になります。

出典:東京証券取引所「取組みの進展が見られる企業」等に関する機関投資家アンケートの別紙

差が出たのは1つだけでした。

「事業ポートフォリオ改革とROIC」です。

  • 一人だけが推す会社では46社(22.2%)
  • 二人以上が推す会社では37社(44.6%)

「事業ポートフォリオ改革とROIC」は実に倍の開きがあります。

残りの5つは、票数が多くても少なくても出方が変わりませんでした。

7票を集めたTHKへのコメントは「新経営方針の下で資本効率重視へ大きく転換し、低収益・低ROIC事業の売却を進め、高収益事業へ経営資源を集中させる事業ポートフォリオ改革を推進。」でした。

同じく7票の日立製作所へは「10年以上にわたり上場子会社の整理や非中核事業の売却を進め、低収益事業から高付加価値なデジタル分野へ経営資源を集中させることで、企業価値と資本効率を大幅に向上させた。」でした。

どちらも、やめた事業と、そこから振り向けた先が対になって書かれています。

評価されているのは新しく始めたことそのものではなく、やめる判断ができたことのようです。

規模で形が変わる

同じ290社を、時価総額の区分で分けてみます。

区分は東証が2026年7月24日時点の時価総額で分けたものです。

割合は、それぞれの区分の中でのものです。

出典:東京証券取引所「取組みの進展が見られる企業」等に関する機関投資家アンケートの別紙

プライム1,000億円以上の196社では「事業ポートフォリオ改革とROIC」が72社(36.7%)で最多です。

ところがスタンダードの40社では3社(7.5%)しかなく、代わりに「資本コストとROEの目標設定」が17社(42.5%)を占めます。

仮説ですが:

  1. まずROE目標
  2. そのあとにROICによる事業の測定
  3. そして不採算のものを見直す

規模の大きい会社ほど、後ろの段階にいるということかもしれません。

会計士として感じたこと

スティーブ・ジョブズは、やらなかったことを、やったことと同じくらい誇りに思っている、と述べています。

290社のコメントを読んでいて、似た形を見た気がしました。

まずは、目標を掲げることから。

ただ、気づくとあれもこれもやっていてずっとそのままになっているという状況は多くの会社(そして個人においても)で「あるある」のような気がします。

やることを増やす前に、やめると決めたものがあるか。

今回の資料で見えるのは評価された側だけですが、まずそこ(やめること)に着目することが増えてきそうです。