2026年3月期の有価証券報告書の「人材戦略の基本方針等」テキストと「平均給与の対前事業年度増減率(=ざっくり賃上げ率)」を抜き出して、分析してみました。
どちらも今年から義務化されたばかりの新しい開示項目です。
全体の賃上げ率(中央値3.2%)

全2,348社のうち、賃上げ率(平均給与の前年比)が数字で取れたのは2,116社(残りは未開示などで取れず)。
この2,116社で並べると、中央値は3.2%。世間の賃上げムードと、まあ整合的です。
……なんですが、よく見ると 5社に1社(約18%)はマイナス。
つまり平均給与が前年より下がっている。物価高のこのご時世に、世の中甘くないです。
業種で3倍ちがう

面白いのは業種差です。
いちばん高いのは 建設業の6.2%、いちばん低いのは 食料品の1.9%。3倍以上ひらいています。
建設は人手不足で待遇を上げないと人が採れない、食料品は生活必需で価格転嫁がしにくい……と考えると、なんとなく腑に落ちます。
なお、会社の規模でも差があって、大手(プライム上場・時価総額が大きい会社)ほど賃上げは厚めでした(業種・規模は、東証の銘柄一覧に証券コードで結び付いた会社での集計)。
各数字は、そのうち賃上げ率が取れた会社の中央値です。
で、みんな何を書いてるの?
ここからが本題。人材戦略のテキストをAI(トピックモデルという手法)に放り込むと、勝手に8つのテーマに仕分けてくれました。
近いテーマほど近くに配置した「地図」がこちらです。

円の大きさが「そのテーマを主に書いている会社の数」、色が「その会社たちの賃上げ率」です。ただし色は、そのうち賃上げ率が数字で取れた会社だけで計算した中央値です(取れなかった会社も、円の大きさ=会社数には含めています)。
ざっくり、①全社方針・価値創造(いちばん大きい総論)②等級・手当・昇給の制度 ③研修・育成 ④AI・技術 ⑤健康・女性活躍 ⑥人的資本投資 ⑦株式インセンティブ報酬 ⑧キャリア・働き方、といったテーマに分かれました。
テーマ分けの対象は、人材戦略の文章があった2,328社。残り20社は文章が空欄でした。各社を主なテーマ1つに振り分けているので、円の社数を合計すると2,327社(文章はあったが解析で有効な語が残らなかった1社だけ外れます)。
業種によって語ることが違う
テーマの出やすさを業種別に見ると、これがけっこうハッキリ分かれます。
- 情報・通信は、圧倒的に「AI」
- 金融(銀行)は「キャリア・働き方」
- 建設は「健康・安全・女性活躍」
- サービス業は「株式インセンティブ報酬」
言われてみれば納得です。
ITがAIを語るのは当然として、建設が健康・安全を語るのは現場の労災リスク、金融がキャリアを語るのは人材の流動性……と、業種ごとの事情が出ています。
ちょっとした発見
テーマと賃上げ率を重ねると、「AIや投資を語る会社ほど、賃上げも厚め」「成果連動・株式報酬を前面に出す会社は、賃上げは控えめ」 という傾向が見えました。
投資マインドの会社は人にも一律で回す、成果主義の会社はメリハリ型。そんな性格の違いが出ているのかもしれません。
でも、みんな似てる
今回様々なモデルを試しましたが、いずれもテーマがくっきり分かれない、あるいは分かれ方が不安定でした。
開示が始まったばかりの関係か、多くの会社が似た書きぶりで、まだ横並びで様子見なんだと思います。
新項目の初年度だから当然かもしれませんが、逆にこれはこれで面白い発見でした。
来年以降、各社の色がどう出てくるか楽しみにしています。
おわりに
自己株買いばかりが目立つ昨今ですが、今回の追加開示により透明性が高まり、人的資本への投資と賃上げの好循環に向かってくれることを、いち会計士として期待しています。
本記事は、note に掲載した内容を再構成したものです。オリジナルはこちら(note)。

